
(一)鸡鸣狗盗
中国の戦国時代の後期に、斉には孟嘗君(もうしょうくん)という賢明な人物がいた。孟嘗君の所には数千人ものたくさん食客(しょっかく 食客というのは、いざという時その知恵借りるために自分の家に一緒に住んでもらっている人のこと)を養い、その中に犯罪者や一見何の取柄も無いような人もいたが。孟嘗君はこれらの人々の身分や身なりを気にせず、皆同じもてなしをしていた。
孟嘗君の才能を聞きつけた秦の昭王は、彼を自分の国の宰相(さいしょう)に任命した。しかし、孟嘗君は斉王の一族だったので、秦に危険な事が起こるかもしれないという忠告を聞いた昭王はそのとおりだと思い、孟嘗君を監禁して後で殺してしまおうと思った。
孟嘗君は、何とか逃げ出せないものかと昭王の愛している女性に助けてくれるよう頼んだ。すると、その女性は、「白狐の毛皮のコートをくれるのなら助けてあげますよ」と条件を出してきた。孟嘗君はその毛皮のコートを以前持っていたのだが、秦の宰相に呼ばれたときに昭王に献上してしまった。困った孟嘗君は良い考えが浮かばず、悩んでいるとき、食客に盗みの上手な人が「私にまかせて下さい」と言い、夜になるとその男は狗(いぬ)のように素早く宮中の蔵にあの毛皮を盗み出してくれた。その毛皮を女性に届けて、昭王にとりなしてもらった結果、孟嘗君は約束どおり釈放された。逃げ出した孟嘗君たちは、手形を偽造し、函谷関(かんこくかん)という関所までたどり着いた。しかし、夜中だったので関所は閉まっていて通る事が出来なかった。そのころ昭王は、孟嘗君を釈放した事を後悔し、追っ手を出した。
関所では、朝に一番鶏が鳴いたら旅人を通す事になっていて、追っ手が来るのではと心配していた孟嘗君は、このままでは捕まってしまうと気をもんでいた。すると、食客の中に鶏の鳴きまねが上手な人がいて、鳴きまねをしてみると近所の鶏が一斉に鳴いたので、関所のお役人は孟嘗君たちを通してくれた。
その後すぐに追っ手が来たが、すでに関所を出てしまったので追うのをあきらめた。
孟嘗君がこの2人の男の人を食客に迎え入れたとき、他の人たちは首を傾げたが、彼らの力で助かったので、皆孟嘗君の人を見る目に感心したのであった。
唐の詩人李白は
天生我才必有用(天が私を生んでくれた以上、必ず世の中の何らかの役に立つためである)という詩が示したように、どんな人がどんなときに役に立つのかわからないし、1つでも他人より優れている所があるというのはすばらしいと言う事だね。(二)毛遂自荐/自告奋勇
同じごろ、趙の国の平原君(へいげんくん)という王族も数千人にも上る食客を抱えていた。
ある時、趙の国は都の邯鄲(かんたん)を秦(しん)の国に包囲されてしまった。秦はとても強い国だったので趙の国力だけではかなわない。そこで、楚(そ)の国と同盟を結び救援してもらおうという事になり、平原君を使者として送ることになった。
そこで平原君は、家臣や食客の中から武術に優れ、知恵のある人を20人連れて行くことにした。そして、19人までを選んだのですが、あと1人がどうしても決まらなかった。すると食客の中にいた毛遂(もうすい)という人が自分を連れていってくれるよう平原君に申し出た。
「毛遂先生は私のところに来てどのくらい年月がたちますかな。」と平原君は聞いた。
「今年で3年になります」
「そもそも賢人と言われる人物は、たとえば錐を嚢中(袋の中)に入れておくようなもので、そのとがった先端はすぐに袋を突き破って見えてくるものです。しかし、いまだかつて毛遂先生の優れたうわさというものを聞いたことがないというのは、先生にはあまり能力がない為と思えます。よって先生をお連れするわけにはいきません」
すると、毛遂は言った。
「私は今日こそ嚢中に入りたいと思います。私がもっと早く嚢中にいれば先端のみならず柄までも突き出ていたことでしょう。」
そう言われて平原君は毛遂を連れて行くことにしたが、他の19人の連れはみんな陰で笑っていた。そして、楚の国に着き、平原君は楚王(そおう)と同盟についての話し合いを始めたが、なかなか結論が出なかった。すると、2人の前に毛遂が進み出てきた。楚王は無礼な毛遂にとても怒ったが、毛遂はひるむことなく楚王にこの同盟の利益を説明し、とうとう楚王を納得させた。こうして毛遂のおかげで同盟を結ぶことができた。
時に、自己PRもとても大事なことである。
(三)唇亡齿寒
「釣りバカ日誌」の浜ちゃんは、現代の日本サラリーマンの人々にとって、まさに憧れのキャラクターである。
なぜなら、「浜ちゃん」は「ゆとり」をもつような手本であり、釣りのために自由な生活ペースを崩さない。
そんな人間、現在ゆとりがない世の中なら、もはや「明日がない」、リストラの対象になりやすいであろう。
人材にはいろいろなタイプがあり、「浜ちゃん」は、普段仕事をまじめにこなさないが、突発事態が起こった時、普段独自ルートで入手した情報、培った智恵と人脈を生かし、事態をうまく収拾してしまう。
しかし、パソコンを敲けば、どんな情報も手に入り、人脈で便宜を図ろうとすると、監察の目が厳しい現実社会では、もはや「浜ちゃん」の存在価値が低くなってしまっている。
そんな意見もあるが、実は自然界ではもうひとつ法則がある。
それは「2:8法則」というものである。
北大が「働かない働き蟻」を発見し、これは人間の組織に似ているじゃないかと面白がられ、テレビなどにも取り上げられたことがある。働きアリの中には、全く働かないで遊んでいるのが20%ぐらい居て、彼らは勤勉アリから餌をもらって生きているらしい。
生物界は生存競争が激しいから、怠け者を20%も抱えた群れが存続出来る筈はない。
研究者が出した結論とは:怠けアリは無駄歩きするから、新しい餌にぶつかるチャンスが多いという。怠けアリは餌を見つけても巣に運ぶことはしないのだが、この様子を勤勉アリが発見して、餌運びを始めるというのだ。怠けアリの混じる集団の方が、結果として、より多くの餌を獲得出来るし、環境変化への対応能力も優れている。
「浜ちゃん」が会社にいられないなら、その会社も先が短いだろう。